母の日に父の日も
働き始めて最初の母の日、私はきれいなリボンの付いた赤い花を買った。プレゼントを手にした母は、一瞬笑おうとしたようだったが、「さあ、食事の準備」と言って、私の前からいなくなった。私はわけがわからなくて、機嫌が悪いのだろうかそれとも、私のプレゼントがうれしくて、泣きそうになった顔を見られたくなかったのだろうかと、いろいろ考えつつ、何となく納得できないまま、自分の部屋に入った。
母の声がして、食事にしようと言う。「サラダはこんなふうにしたほうが・・・」と料理を並べながら、「さっきはごめんね」 と言う母の目が、赤くなっていた。「プレゼントぐらいで、 泣くことないでしょう」と言う私に、 「ううん、そうじゃないの」 と言って手を止め、腰を下ろすと、母は自分の父のことを話し始めた。
私の母は父親に育てられた。母親が早く亡くなり、さびしい思いをさせてはいけないと、 父親が母親の役割もして、 私の母をいっしょうけんめい育てた。 母は大学に行きたかったそうだが、父親に楽をさせようと、「勉強は好きじゃないから」と言って、高校を卒業すると働き始めた。その話は前にも聞いていたが、 母が小学生のころに描いた花の絵のことは、初めて聞く話だった。
ある年の「母の日」のこと。「これ、お父さんにプレゼント。私にはあげる人がいないから」と小学生だった私の母は、父親の前に1まいの絵を置いた。手にした絵をしばらく見ていた父親は、「じょうずに」 と言うと、 後は言葉にできないままで、部屋を出て行ったと言う。母が結婚してすぐ、安心したように亡くなった父親の部屋から、小学校のときに、父にプレゼントした赤い花の絵が出てきた。花の絵の横に、「じょうずに描けたね」 と、 父が言えずじまいだった言葉が残されていた。懐かしい父の字だった。「母の日に父親のことを思い出すなんてね」母はそう言って、テーブルに置かれた赤い花をじっと見つめていた。
母の声がして、食事にしようと言う。「サラダはこんなふうにしたほうが・・・」と料理を並べながら、「さっきはごめんね」 と言う母の目が、赤くなっていた。「プレゼントぐらいで、 泣くことないでしょう」と言う私に、 「ううん、そうじゃないの」 と言って手を止め、腰を下ろすと、母は自分の父のことを話し始めた。
私の母は父親に育てられた。母親が早く亡くなり、さびしい思いをさせてはいけないと、 父親が母親の役割もして、 私の母をいっしょうけんめい育てた。 母は大学に行きたかったそうだが、父親に楽をさせようと、「勉強は好きじゃないから」と言って、高校を卒業すると働き始めた。その話は前にも聞いていたが、 母が小学生のころに描いた花の絵のことは、初めて聞く話だった。
ある年の「母の日」のこと。「これ、お父さんにプレゼント。私にはあげる人がいないから」と小学生だった私の母は、父親の前に1まいの絵を置いた。手にした絵をしばらく見ていた父親は、「じょうずに」 と言うと、 後は言葉にできないままで、部屋を出て行ったと言う。母が結婚してすぐ、安心したように亡くなった父親の部屋から、小学校のときに、父にプレゼントした赤い花の絵が出てきた。花の絵の横に、「じょうずに描けたね」 と、 父が言えずじまいだった言葉が残されていた。懐かしい父の字だった。「母の日に父親のことを思い出すなんてね」母はそう言って、テーブルに置かれた赤い花をじっと見つめていた。